絵画を購入すると経費で落として節税できるのか、減価償却の方法も知りたいと思っていませんか?
絵画や彫刻、骨董品などの美術品を購入したら、その購入費用を経費で落として、節税対策に役立てることもできます。
この記事では、絵などのアートを買った時の減価償却や資産計上の仕方、償却資産税(固定資産税)がかかるのかについてもご紹介します。
また、上級者向けに、美術品の売買での税金対策の仕組みについても解説しています。
経営者、自営業、フリーランス(個人事業主)、副業をしている方向けに、絵画を買う時や節税に役立つ、ぜひご覧いただきたい内容です。
それでは、詳しく見ていきしょう。
ご注意:
この記事は執筆時の日本の法律や制度を基にして、筆者の解釈で書いています。
法律や制度は更新されるため、その内容や解釈、判断が執筆時とは変わる可能性があります。
個別の事例は、適用される法律や制度が変わることがありますので、必ず税理士や弁護士にご相談ください。
☑目次
- 絵画を購入したら経費で落とすことはできる?節税の仕組みとは。
- 絵画の減価償却と資産計上―償却資産税(固定資産税)も解説
- 【上級者向け】絵画や美術品の売買で節税・税金対策ができる?
絵画を購入したら経費で落とせる?節税の仕組みとは。
それでは、まず絵画を購入したら経費で落とすことができるのかを見ていきましょう。
絵画の購入したら、経費で落とすことができます。
絵画を購入した時は、下記のように価格ごとに経費の落とし方が変わります(一部の例外を除く)。
30万円未満の絵画
1点30万円未満の絵画は、年間合計300万円まで購入時に全額を経費として落とすことができます。
100万円未満の絵画
一般的に、8年で減価償却して経費で落とすことができます。
ただし、時間が経っても美術品としての価値が減らないものを除きます。
100万円以上の絵画
会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所に展示し、移設が困難であり、他の用途に転用する際に美術品としての価値がないものであれば、8年で減価償却して経費で落とすことができます。
100万円以上の絵画で上記の条件を満たさないものは、減価償却できない資産となります。そのため、売却したり、廃棄する時まで取得費用を経費で落とすことはできません。
それでは、これらの購入費用ごとの経費の落とし方、対象となる企業や美術品について、詳しく見ていきましょう。
30万円未満の絵画は、購入時に経費で落とすことができます。
中小企業などの法人や個人事業主が絵画を購入したら、取得金額が1点30万円未満の絵画や彫刻、骨董品などの美術品の取得金額相当額を損金に算入し、全額を経費として落とすことができます。
この場合、絵画の購入金額分を対象としてかかる法人税などの税金対策ができます。
この対象となる資産は、年間合計額が300万円までとなります。
少額減価償却資産の特例を詳しく見てみましょう。
中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産(以下「少額減価償却資産」といいます。)を平成18年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。
この特例の対象となる資産は、取得価額が30万円未満の減価償却資産です。
取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの少額減価償却資産の取得価額の合計額が限度となります。
以上、国税庁 No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
オフィスや事務所、店舗に飾る絵は経費で落とせますか?
一般的に、オフィスや事務所のエントランスやロビー、会議室、役員室、店舗、クリニックなどに飾る美術品を購入した場合は、事業に使う備品と見なされるため、経費で落とすことができます。
倉庫に保管している美術品も対象になりますか?
オフィスや事務所、仕事場に飾らずに倉庫に保管している美術品については、下記のように解説があります。
[Q9] 建物のエントランスや会議室、役員室に展示している美術品等は、事業の用に供しているものと考えられますが、現在、展示を休止して倉庫等に保管されている美術品等は、事業の用に供していることにならないのでしょうか。
[A]
国税庁 美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ
減価償却資産に該当する美術品等が装飾や展示に用いられている場合には、通常、事業の用に供しているものと考えられます。
お尋ねのように、倉庫等に保管され現在展示を休止している美術品等であっても、その休止期間中必要な維持管理が行われており、いつでも展示可能な状態にあるものについては、事業の用に供していることになります(法基通7-1-3)。
倉庫に保管していても、メンテナンスをしていつでも展示できる状態であれば、事業用の備品とみなされるようです。
対象となる企業や法人、個人事業主とは?
この少額減価償却資産の特例の対象となるのは、下記の法人や個人事業主です。
- 資本金が1億円以下で、従業員数が500人以下の法人
- 従業員の数が1,000人以下の個人事業主
特例の対象となる条件は、中小企業庁によると下記のように解説があります。
青色申告書を提出する、資本金または出資金の額が 1 億円以下の法人等(※1)または常時使用
する従業員の数が 1,000 人以下の個人※1.資本金または出資金の額が 1 億円以下の法人等であっても、次の法人は本税制の適用を受
けることができません。 * 大規模法人(資本金または出資金の額が 1 億円超の法人、大法人(※2)
の 100%子法人(※3)等)から 2 分の 1 以上の出資を受ける法人 * 2 以上の大規模法人から 3
分の 2 以上の出資を受ける法人 * 常時使用する従業員の数が 500 人を超える法人 * 税制の適
用を受けようとする事業年度における平均所得金額(前 3 事業年度の所得金額の平均)が年 15
億円を超える法人 * 通算法人※2.資本金 5 億円以上の法人、相互法人・外国相互会社(常時使用する従業員が 1,000 人超
中小企業庁 少額減価償却資産の特例
のもの)または受託法人
企業や法人はどれだけ節税できるのですか?
事業の規模によって、絵画などの美術品の取得金額の約21%~34%前後を節税できる可能性があります(実効税率ベース)。
中小企業の実効税率の目安
企業の所得とは、企業会計の経常利益に近いと言われています。
- 年間所得400万円以下 約21%
- 年間所得800万円以下 約23%
- 年間所得800万円以上 約34%
※ 上記は目安です。事業規模や条件などによって異なる場合があります。
個人事業主はどれだけ節税できるのですか?
個人事業主は、課税される所得金額に対して5%~45%の所得税がかかります。
(出典:国税庁 No.2260 所得税の税率)
そのため、絵画購入を必要経費と落とすことで、所得税などの節税ができる可能性があります。
美術品の「取得金額」は、どのような費用が含まれますか?
美術品を購入した時に経費で落とすことができる取得金額は、どのような費用が含まれるのでしょうか?
取得金額に含まれる費用について、国税庁は下記のように解説しています。
[Q8] 絵画を購入した場合、その絵画の額縁は美術品等の取得価額に含まれますか。このほか、美術品等の取得価額に含まれるものには、どのような費用がありますか。
国税庁 美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ
[A]
一般的に、額縁はその絵画の一部として取得価額に含まれるものと考えられます。
また、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額となります。
この当該資産の購入の代価とは、引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等その資産の購入のために要した費用をいい、当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額には、例えば、据付費等が該当しますので、これらの費用が美術品等の取得価額に含まれることになります(法令541)。
国税庁の通知によると、絵画の購入のためにかかった下記の費用は取得価格に含まれることが分かります。
取得価格に含まれる費用
- 額縁
- 引取運賃
- 荷役費
- 運送保険料
- 購入手数料
- 関税
- 据付費 など
絵画の減価償却と資産計上―償却資産税(固定資産税)も解説
それでは、絵画などの美術品の減価償却と資産計上の仕方を見ていきましょう。
絵画の減価償却は、100万円が目安です。
美術品の減価償却に関して、国税庁は下記のように解説しています。
取得価額が1点100万円未満である美術品等は原則として減価償却資産に該当し、取得価額が1点100万円以上の美術品等は原則として非減価償却資産に該当するものとして取り扱うこととしました。
なお、取得価額が1点100万円以上の美術品等であっても、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」に該当する場合は、減価償却資産として取り扱うことが可能です。(注)取得価額が1点100万円未満の美術品等であっても、「時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなもの」は、減価償却資産に該当しないものと取り扱われます。
国税庁 美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ
企業などの法人や個人事業主は、美術品の取得価格が100万円未満の場合は、原則として減価償却することが可能です。
一方、取得金額が100万円以上の美術品は、原則として減価償却することができません。
ただし、取得金額が100万円以上であっても「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」に当てはまる場合は、減価償却できます。
一方、取得金額が100万円未満であっても、「時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなもの」は減価償却することができません。
減価償却できない100万円以上の美術品は、購入時に経費として計上することはできません。
100万円以上など減価償却できない美術品は、廃棄や売却するまで会社の資産として帳簿に計上されます。
美術品を売却や廃棄した時に、取得価額を経費として計上できます。
時間が経つと価値が減る100万円以上の美術品とは?
時間が経つと価値が減るとされる100万円以上の美術品は、減価償却することができます。
時の経過によりその価値が減少する美術品とは、下記のすべての項目に当てはまるものです。
取得価額が1点100万円以上である美術品等であっても、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」として減価償却資産に該当するものとしては、例えば、次に掲げる事項の全てを満たす美術品等が挙げられます。
(1)会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所の装飾用や展示用(有料で公開するものを除く。)として取得されるものであること。
国税庁 美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ
(2)移設することが困難で当該用途にのみ使用されることが明らかなものであること。
(3)他の用途に転用すると仮定した場合に、その設置状況や使用状況から見て美術品等としての市場価値が見込まれないものであること。
例えば、ガラスケースに収納されている等、退色や傷付きが生じないように展示されているものについては、たとえ(1)や(2)の要素を満たしていたとしても、(3)の要素であるその設置状況や使用状況から見て美術品等としての市場価値が見込まれないとまでは言えないことから、取得価額が1点 100 万円以上の美術品等については減価償却資産には該当しないこととなる。
国税庁 第1 法人税基本通達関係 減価償却資産
上記より、会館のロビーや葬祭場のホールのような不特定多数の者が利用する場所に展示し、移設が困難であり、他の用途に転用する際に美術品としての価値がないものが当てはまると考えられます。
たとえば、壁画なども該当すると考えられます。
ただし、保管方法に関しては、ガラスケースに収納されているなど退色や傷付きが生じないように展示されているものは、美術品の価値が減らないと考えられるため、減価償却できません。
時間が経っても価値が減らない100万円未満の美術品とは?
下記に当てはまる場合は、時間が経っても価値が減らないとされるため、取得費用が100万円未満であっても減価償却できません。
⑴ 古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性
国税庁 美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ
のないもの
「時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなもの」とは、例えば、高価な素
国税庁 第1 法人税基本通達関係 減価償却資産
材が大部分を占める小型の工芸品のように素材の経済的価値が取得価額の大部分を占める
ようなものがこれに該当し、このようなものについては取得価額が1点 100 万円未満であ
っても減価償却資産として取り扱わないこととなる。
古美術品、古文書、出土品、遺物などのように歴史的な価値や希少価値があり、代替できないものや、高級素材でできていて、取得価格の大部分が素材の経済価値によるものは、当てはまります。
絵画などの美術品を減価償却する時の法定耐用年数とは?
部屋に飾る絵画などの美術品の法定耐用年数は通常8年です。
ただし、金属製のものは15年です。
(1) 室内装飾品のうち主として金属製のもの……… 15年
例えば、金属製の彫刻(2) 室内装飾品のうちその他のもの………………… 8年
国税庁 美術品等についての減価償却資産の判定に関するFAQ
例えば、絵画・陶磁器・彫刻(主として金属製のもの以外のもの)
150万円以上の美術品にかかる償却資産税(固定資産税)
絵画などの美術品を減価償却する場合、課税標準額(償却資産の評価額の合計)が150万円を超える場合には、償却資産税(固定資産税)がかかります。
逆に、美術品の課税標準額が150万円未満の場合は、償却資産税がかかりません。
目安として、東京都の償却資産税は課税標準額の1.4%です。
(出典:東京都 固定資産税(償却資産))
償却資産税の税率は市区町村によって異なるため、所在地の自治体にご確認ください。
少額減価償却資産の特例(30万円未満の美術品)にもかかります。
また、1点30万円未満の美術品を購入する際に、少額減価償却資産の特例を用いた場合は、所有する美術品の課税標準額が150万円以上になると償却資産税(固定資産税)がかかります。ご注意ください。
【上級者向け】絵画の売買で節税対策ができる?
それでは、上級者向けに絵画の売買で節税対策ができるのかについて、見ていきましょう。
資産としての絵画とは?
資産としての絵画とは、どのような作品でしょうか。
絵画には、アート市場でのバリューと人の心に働きかける目に見えない力があります。
絵画の3つの資産
- 有名な画家の価格が高い絵画で、市場価格が落ちにくい作品があること。
- 新人作家や有名ではなかった画家の作品の知名度が上がり、絵画の価格が上がること。
- 有名無名問わず、魅力ある絵画を飾ることで、仕事へのモチベーションがアップし、応接室や会議室などの場を和やかにして明るくする力。
この3つの場合に関して、絵画の売買の事例を見てみましょう。
(1)は、市場価格が落ちにくい作品を売買する場合、資産運用としても成り立つでしょう。
(2)は、作品を購入することが投資とも言えます。
新人画家の絵を購入して数年後や数十年後に値段が上がり、売却する事例が考えられます。
(3)は、目には見えない絵画の力です。
しかし、目には見えない絵画のパワーは、事業やビジネス、人生に大きな影響を与えます。
この場合は、アートを売買するというよりも所有していることに意味があると言えるでしょう。
人が描く絵画の魅力について、下記の記事で詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。
絵画の売買で節税できる可能性。その仕組みとは?
たとえば、中小企業やベンチャー企業、個人事業主が、資産価値が見込める画家の絵画を経費で購入したとします。
そして、支払いの目途がある資金やキャッシュが必要なタイミングで、妥当な価格で絵画を売却した場合には、節税できる可能性があります。
絵画を購入せずに決算時に利益を計上して税金を支払い、数年後または数十年後に必要な支払いをした場合に比べて、法人税などの支払い額が安くなる可能性があります。
ただし、これは絵画を売却した年度に、売却で得られた利益に当たる金額の支払いをした場合です。
購入した時点で経費として落としたものであれば、絵画を売却して得られた費用は、営業外収益の雑収入などで計上できると考えられます。
一方、貸借対照表の固定資産として絵画を計上している場合は、貸借対照表の金額(帳簿価額)を売却した価格から差し引いたものが営業外損益などとして計上されると考えられます。
そのため、売却で得られた金額分を同じ事業年度内に経費として使わなければ、法人税などが課税されると見込まれます。
また、絵画の売買で収益を上げるには、安定した価値がある絵画やこれから価値が上がるアートを見抜いて購入することが大切です。
絵画の価値は、知名度や注目度、歴史的・文化的価値、ブームなどによって上がります。
そのため、絵画の売買で節税しようとした場合は、アートマーケットの市場動向を見通せる能力やセンスが必要でしょう。
絵画のコレクションや市場動向を予測することが趣味で、アートが好きな場合は挑戦する価値があるかもしれませんね。
企業が美術品を国に寄付すると税制優遇措置
文化庁により、企業が美術品を国などに寄付した場合には、時価相当額を経費として計上できる税制優遇措置があります。
文化庁は美術品寄付に関する法人税の優遇措置に関して、次のように解説しています。
文化庁 美術品等に係る税制優遇措置について
- 法人税
法人が,美術品等を国等に寄付した場合,時価相当額が損金として所得金額の計算上控除される。
絵画や彫刻、骨董品などの美術品をすでに所有している場合は、こちらの制度も検討してみてもいいかもしれません。
このように、絵画などの美術品を購入することは、経費として落とすことができて、税金対策もできる可能性があります。
絵画を商用利用する場合の著作権について、下記の記事で解説しています。こちらもぜひご覧ください。
>> 購入した絵画を商用利用できる?知っておきたい著作権の話
この記事が、あなたのお役に立てればうれしいです。
ご注意:
個別の事例は、適用される法律や制度、判断が変わることがありますので、必ず税理士や弁護士にご相談ください。
本件に関連するいかなる損害に関しても、当社では一切責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。