冬の絵画や冬を感じる絵、日本の冬の景色の絵は、どのような作品があるのかを探していませんか?
冬らしい絵画として、雪や景色を描いた絵画がよく知られています。
この記事では、雪景色などの日本の冬の風景画や、人々の暮らしや冬の花など冬を描いた日本画や浮世絵をご紹介します。
寒い季節であっても、冬の自然の中には「美」が宿っています。
冬の景色とともに、冬の暮らしに寄り添った描写の絵画を詳しく見ていきましょう。
あなたが今まで気づかなかった日本の冬の素敵な一面に触れることができるかもしれません。
☑目次
- 日本画や浮世絵に描かれてきた冬―古くからの冬の過ごし方とは?
- 冬を描いた絵画やアート―日本の雪と冬景色
- 浮世絵に描かれる冬の過ごし方とお正月、冬に咲く花の絵画
日本画や浮世絵に描かれてきた冬―古くからの冬の過ごし方とは?
それでは、まず日本画や浮世絵などの冬の絵画が描かれてきた背景や古くからの冬の過ごし方を見ていきましょう。
日本画や浮世絵に描かれている冬とは、どの時期を指しますか?
日本では一般的に、冬は12月~2月頃です(現在の太陽暦ベース)。
一方、日本では伝統的に、太陰暦を用いてきました。
1872年(明治5年)に、これまでの太陰暦の利用から、現在の太陽暦の利用に変わりました。
太陰暦では、冬は10月~12月です。
太陰暦は、現在使われている太陽暦の約1ヵ月遅れの日付になります。
そのため、太陽暦でいうと、冬は、冬の始まりの日である11月上旬頃の「立冬」から、春の始まりの日である2月上旬頃の立春までです。
絵画に描かれる冬は、どんな季節ですか?
冬は、1年の中でもっとも寒い季節です。
日本は伝統的に多くの人々が農業を行ってきた国です。
そのため、主食の米である稲の収穫を秋に終えます。
農作業が少なくなる冬は一息付く季節であったかもしれません。
一方で、冬には、新年を迎える行事である「お正月」があります。
お正月は、古くから日本人にとって1年の中で最も大きな節目です。
冬には、1年の締めくくりを迎えるにあたって、お正月の準備や大掃除をします。
そのため、冬は忙しい時期でもあります。
冬の絵画に描かれてきた雪景色
東北地方や北海道、本州の日本海側、標高の高い場所では、雪が降り積もります。
日本は、日本海の上部の低気圧が日本海側に多くの雪を降らせるため、たくさんの雪が降ります。
日本人にとって雪は冬を象徴するものの1つであるため、多くの絵画に雪景色が描かれてきました。
一面真っ白な雪景色の中に、茅葺の民家が立ち並ぶ様子や、稲を刈り終わった後の水田に真っ白の雪が積もる景色は、どことなくホッとして心が温まります。
北海道などでは、「パウダースノー」と呼ばれるサラサラの雪が降るため、ニセコなどにスキーを楽しむ多くの外国人が訪れています。
冬を描いた絵画やアート―日本の雪と冬景色
それでは、雪や冬景色など日本の冬を描いた絵画やアートを具体的に見ていきましょう。
雪や冬の景色を描いた作品は、冬っぽい絵ですよね。
この解説では、日本の冬を描いたアートについての私の見方をご紹介します。
冬を感じる絵として、雪の絵画が人気の理由とは?
「雪」を見ると、冬が来たことを感じます。
真っ白の雪景色には、何とも言えない美しさがあります。
きれいな雪景色を描いた冬の風景画は、昔も今も人気がありますね。
日本の雪や冬景色を描いた絵画やアート
それでは、雪景色を描いた日本の絵画をご紹介しましょう。
池上本願寺
しんしんと降り積もる江戸の雪景色を描いた木版画の作品です。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」 (https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/))
川瀬巴水(1883-1957)は、この「池上本願寺」の作品を1935年に制作しました。
この作品のタイトルとなった「池上本願寺」は東京都大田区にある仏教(宗派:日蓮宗)のお寺です。
街の風景の輪郭と鈍い色の空が、雪の白さを引き立てています。
作品を見ると、傘を差した子連れの着物姿の女性2人が、お寺の門に向かって歩いている後ろ姿が見えます。
1935年頃の日本では、ほとんどの人が毎日着物を着て暮らしていたのですね。
雪景図
「雪景図」は、山に降り積もる雪と霞がかった景色を描いた作品です。
この絵画「雪景図」の作者は、橋本雅邦(1835-1908)です。
(出典:所蔵・情報源・撮影者 メトロポリタン美術館)
橋本雅邦は、江戸時代には狩野派の画家として活躍し、明治時代には、日本画の画家として活躍しました。
この作品は、控えめな雰囲気でありながら、幽玄とも言える雪景色に吸い込まれていくような気持ちになる絵画です。
日本画の特徴は、絵画の一部をあいまいに描くことで、作品の世界の景色に奥行きを持たせることです。
この特徴は、景色を明確に描く作品が多い西洋画とは対照的です。
見る人は、絵画に描かれていない部分を想像して鑑賞することで、作品の味わいを深めることができます。
日本人は古くから、形に描かれていない物を心の目で観察し、察することを大切にしてきました。
日本画を見る時には、絵画の「空白」の部分に、あえて描かれていない景色を想像することも必要かもしれません。
想像力や察する力を大切にする姿勢が、作品を深く鑑賞することにつながります。
日本画に描かれる雲の意味とは?
日本画では、多くの作品に雲が描かれています。
雲は、景色の中の一部分として描かれるとともに、上記のように雲で隠れた景色を描いた作品も多いです。
雲で見えていない景色を想像しながら鑑賞すると、作品の世界観が深まるように感じます。
名所江戸百景 日本橋雪晴
江戸時代の浮世絵「名所江戸百景 日本橋雪晴」は、浮世絵師の歌川広重(1797-1858)が制作しました。
(出典:所蔵・情報源・撮影者 シカゴ美術館)
「名所江戸百景」は、江戸の名所のきれいな風景を描いた120作品の浮世絵です。
歌川広重は、弟子たちとともに120作品の浮世絵を1856年から1858年に制作しました。
江戸時代も今も、江戸(現在の東京)の日本橋は多くの人が集まる賑やかな繁華街です。
「日本橋雪晴」を見ていると、当時の江戸の日本橋も多くの人が行き来する賑やかな場所だったことが分かりますね。
この絵画の中央にある「日本橋」は今でもある橋です。
日本橋の街は、江戸時代からの下町で、東京の中でも古い文化が残っているところです。
江戸には街の中にたくさんの川があり、人々は多くの荷物を各所に船で運んでいました。
江戸と東京、今と昔はどう違う?
この浮世絵は、当時の日本橋は木でできていたことを表しています。
もともと森林が豊富な日本では、昔は、多くの橋や船や民家は木でできていました。
一方、今の日本橋はコンクリートなどでできています。
とはいえ、時代は変わっも、江戸(東京)は今も昔も人が多く、建物が密集して建っていることは同じですね。
この絵の上側には、日本の美しい山である富士山を見ることができます。
当時は建物が低かったので、江戸の街から富士山が見えたのでしょう。
今の東京には高いビルがたくさんあります。
そのため、富士山を見るなら、高層ビルなど高いところに上るのがおすすめです。
牛堀
この版画作品「牛堀」は、川瀬巴水(1883-1957)が1930年頃に制作した作品です。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」 (https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/))
雪の中で船をこぐ人とその風景を描いた作品で、景色全体をつつむ青色がとても印象的です。
しんしんと積もる雪の日の静けさや空気の冷たさが画面から伝わってくる作品です。
日本人の何気ない暮らしと景色を描いた作品で、静かな美しさを感じます。
浮世絵で描かれる日本の冬とお正月、冬に咲く花の絵画
それでは、冬の人々の暮らしを描いた浮世絵の作品や冬に咲く花の絵画を見ていきましょう。
冬の人々の暮らしを描いた浮世絵や冬に咲く花の絵画
十二月之内 師走餅つき
この作品「十二月之内 師走餅つき」は、旧暦の12月(日本では師走と呼ばれる)に餅つきをしている様子を描いた浮世絵です。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」 (https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/))
浮世絵師の歌川国貞(初代)は、1854年にこの作品を制作しました。
新年を祝う「お正月」は、1年のなかでも最も大きな行事の1つです。
伝統的に、旧暦の新年は旧暦の1月1日(現在の太陽暦では2月上旬頃)です。
そのため新年を迎えるにあたって、旧暦の12月(師走)に準備をしてきました。
お正月には鏡餅を飾って、お雑煮を食べる習慣がありますが、鏡餅やお雑煮に使う餅つきも大切な行事です。
お餅は、「もち米」と呼ばれる種類の米を蒸して、臼に入れて杵で餅を付き、食べやすい大きさに丸めたり、切ったりして作ります。
筆者も以前に餅つきをしたことがありますが、臼に入れた餅を杵でつくのは、力がいる仕事です。
コタツで過ごす女性たち(絵本四季花 下)
この作品「絵本四季花 下」には、冬の寒い時期にコタツに入って過ごす女性たちを描いた浮世絵が載っています。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」 (https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/))
浮世絵師の喜多川歌麿は、この作品を1801年に制作しました。
江戸時代には、街中では冬の暖房として、火鉢と並んでコタツを使ってきました。
当時のコタツは、木でできた櫓の上に厚手の布団などをかぶせ、火鉢などで中を暖める仕組みです。
コタツに入るととても暖かいので、一度入ると出られなくなりそうです。
冬に咲く花、椿
この絵画は、冬に咲く花、椿を描いています。
この絵画は「日本産ツバキの図」に載っていて、紅麒麟(ベニキリン)という品種だそうです。
(出典:国立国会図書館「NDLイメージバンク」 (https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/))
日本の冬の花として良く知られているのは、椿でしょう。
澄んだ青空と木の葉が落ちた茶色の木々が織りなす冬景色には、椿の鮮やかな赤色や白色がとても映えます。
椿はもともと日本にある花です。
椿は、江戸時代には園芸ブームが起きてさまざまな種類の品種が生まれたといわれています。
日本画や浮世絵に描かれる寒い冬を乗り切る工夫
浮世絵や日本画には、雪景色の美しさとともに、寒い冬を乗り切る工夫が描かれています。
その風習や慣習のなかには、現代の日本にも受け継がれているものがあります。
日本では、寒い冬の景色のなかに美を見出し、自然と調和していきることを良しとしてきました。
この古くからの日本人の生き方には、学ぶことがたくさんあるかもしれませんね。
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